猫ひげ1000本

ふと自分に聞いてみたくなる1000の質問

真実と事実

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事実は一つだけれど、真実はたくさんあると言います。

 

私の知っている人は、その息子から言わせると、決していい父親ではありませんでした。

身勝手で自己中心的、自分の都合に合わせて家族を動かし、自分のルールを振りかざして家族を支配するような父親でした。

浮気を繰り返し、妻に暴力をふるった。

息子は父親に遊んでもらった記憶はない。

息子が16歳の時、離婚して父親は家を出て行きました。

女性には困らない人だったから、離婚後も次から次に女性ができる。

その度に、息子にその女性を合わせる。

その女性の子供と仲良くするように強いる。

息子が大きくなって40歳になっても、父親の話の大半は女性のこと。息子の仕事のことや家族のこと、息子が今なにを考えているのか、なにを悩んでいるのかなんてことに父親は興味を示さない。

息子はそんな父親に諦めの感情を抱きつつも、自分のことばかり話す父親に対して、なんで? と思わずにはいられない。

小さい頃から「なんで?」と何度となく胸の中でつぶやいてきた。

 

ある日、その父親が私に言いました。

「息子のことを愛している。自分は父親としてあれもしてやったこれもしてやった。息子とは素敵な思い出がたくさんある」

飲んでいたタピオカティーのタピオカが、口から飛び出るかと思いました。

ですが彼は、カラスは黒いよと言うのと同じ調子で、当たり前のことを言っている様子。その瞳にはためらいや罪悪感の影は全く見えません。

そして私は思いました。

この人にとっての真実はこれなんだ。

この人は自分はいい父親だったと本当に思っている。

ありもしない父親と息子の楽しい記憶が、この男の脳裏には存在している。

この男は、事実を完全に塗り替えて、自分にとっての真実を信じている。

救いようがないと思いました。

 

ですが、こういうことってどこにでもある話です。

一人ひとりにとっての真実がある。

真実の前に、事実なんてどうでもいいことです。

人は自分の都合で生きている。

 

私はその父親に事実を突きつけて糾弾してやりたい衝動にかられましたが、たとえ私がそうしたとしても、きっと彼はキョトンとした顔でこう言ったでしょう。

「サユリ、どうしたの?一方的な話で僕をジャッジしてはいけないよ。いいかい、事実はこうだ」

 

 

ふと自分に聞いてみたくなる1000の質問 #31

あなたの信じている真実は、事実ですか?

 

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